【書評】朝井リョウ「何者」のレビュー

こんにちは.3月が近づいてきて,就活の時期が近づいていますね.

 

リリースされたのは少し前,ですが,朝井リョウさんの「何者」を実にタイムリーな時期に読みました.

 

就活生ならば,この本を読むタイミングは考えなければいけないかもしれません.

これを読んで奮起する可能性もありますし,はたまたメンタルがえぐられる可能性だってあると思います.

 

「何者」に登場する人物は,周りに結構ありふれている人々かも知れません.

 

地道にコツコツと物事をこなす瑞月や,就活のためにボランティアやインターンを経験している,所謂「意識が高い」理香,楽観的で壁をひょいと超えてしまうような光太郎...

 

周りに流されずに確固たる信念を貫く隆良のような人物だって,珍しくはないと思います.

 

就活を舞台に登場する個性豊かな人々ですが,一番共感ができたのは主人公の拓人でした.

 

一番共感し,一番批判し,同時にブーメランをくらいました.

 

主人公の拓人は所謂「冷静分析系」.

 

常に物事を一歩ひいて観察し,それを口には出さないものの,批判をいつも抱えており,SNSでそれを吐き出し続けています.

 

客観的に見れば性格の悪い主人公,ということになりますよね.

しかし,自分はこの主人公を他人事のように感じられませんでした.

 

それだけに,背表紙にもありますが,ラストの30頁はかなり自分の身にも刺さります.里香の拓人に対する糾弾はまるで自分にも降り注いでいるようも思えました.

 

 

SNSとは怖いものです.

隠せていると思うアカウントだって,メールアドレス一本でばれてしまう可能性もあるのですから.

 

批判を表には出さずに,自分の分析を陰で暴露する...

「冷静分析系」はTwitterが普及した現在の大学生の特徴の一つかもしれません.

 

そして作中の登場人物をまた分析してしまっているあたり,自分も同類かもしれません(笑)

 

 

今回はこんなところで.

お読みくださってありがとうございます.

 

何者 (新潮文庫)

何者 (新潮文庫)

 

 

 

 

常識を覆すようなアンドレ・シフのバッハ

3月21日にアンドレ・シフのピアノリサイタルがあります.

 

今年自分はチケットを手に入れ,そのリサイタルに運良く行けることになりました.が,実はシフについてはテレビで何度か見ただけであまり彼については良く知りませんでした.

 

これは少し予習せねば!ということで試しに聴いてみたのがこちら.

バッハ/インヴェンションとシンフォニア

バッハ/インヴェンションとシンフォニア

 

 インヴェンションとシンフォニア

他の方がどの曲を弾いて学んできたかはあまり良く分かりません.

が,ピアノを習う過程でこの曲を経験した人は少なくないはず!

 

改めて聴いてみると二声も三声も綺麗な曲ですね~.

 

アンドレ・シフについて

アンドレ・シフ(アンドラ―シュ・シフという表記もあります)は1953年生まれ,ハンガリー出身のピアニスト.

 

もちろんプロのピアニストですから,バッハ,ハイドンモーツァルトショパン,リストなど何でもこなします.

 

ただ,TVで彼を見かけるときは決まってベートーヴェンを弾いているイメージがありました.調べてみるとベートーヴェンの演奏による業績もたたえられてるそう.

 

また,共演もさることながら,自分で指揮もしながらピアノを弾いてしまうという,「弾き振り」もこなす超人なんですね~.

 

一風変わった(?)バッハ

インヴェンションを練習していた日々を懐かしみながらさっそく再生.

 

ところがこのインヴェンション,一曲目から驚かされました.

 

インヴェンション一曲目.なんとまぁ,ヌルッとした演奏であることか(笑)

 

いろんな作曲家の曲の演奏のイメージとして,こんな絵があります.

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https://www.reddit.com/r/piano/comments/4150zc/hands_according_to_pianists/より引用

 

バッハのイメージはジブンの中でもまさにこんな感じ!

 

まるで機械仕掛けのように,ノンレガートできっちり淡々と弾き続ける,そんなイメージがありました.

 

ところがシフの演奏はすごい.

 

機械の手に油をさし過ぎて潤滑が良くなり過ぎたような,氷の上に立って一歩一歩うまく歩けなくなってしまったような,そんな演奏になっていますね.

もしかしたらグレン・グールドが聴くと怒ってしまうかもしれませんね(笑)

 

こんなバッハは聴いたことがなく,かなり新鮮な演奏でした.

 

終わりに

3月に開催されるリサイタルはモーツァルトベートーヴェンハイドンシューベルトの計4曲.

 

その時もまた彼は驚くような演奏を聴かせてくれることでしょう!

 

 

今回はこんなところで.

読んでくださってありがとうございます.

【書評】「夢をかなえるゾウ」で自分を変えられるか

自分を変えたいと思っている人はどのくらいいるのだろうか.

夢をかなえるゾウ文庫版

夢をかなえるゾウ文庫版

 

 この本は周りが読んでいたのでタイトルだけ知っていた.

本屋でサラッと読んでみたら案外読み易く,普通に小説としても面白い読みものである.

 

登場人物,ストーリーの軽さのおかげで「自己啓発」というジャンルのハードルを大きく下げているのが良い.

 

今の自分に満足していない,という人は一度読んでみる価値があるかもしれない.

 

一味違う自己啓発本

 

あらすじはちょっとありふれているかもしれない.

パッとしない主人公のもとにガネーシャと呼ばれる神様が降りてきて,ガネーシャの言うままに「課題」をこなし,そのうちに主人公が成長していく物語である.

 

前述したとおり,この本は所謂「自己啓発本」というものだ.

 

いままでその類を読んでこなかったので,初めての自己啓発本にしてはかなり新鮮であった.(と,いうかこの本を読んで他のレビューを見るまで自己啓発本と思わなかった)

 

作中で神様が出す課題は「成功」への道に一見遠回りであるように思える.だがすべての課題の根拠は過去の偉人に基づいている.

 

単に偉人のエピソードを知るという意味でもいい作品だが,自分の境遇を考えてはっとさせられる部分も少なからずあった.

 

夢は大きく,でも地に足をつける

怠け者ほど,動かずに成功した自分をただ妄想するものである.

(ジブンも人の事を言えない立場だが)

 

だがガネーシャの教訓にもある通り,夢を持つのは悪いことではない.

むしろ夢がないと原動力にならないし,人生がつまらなくなる.

 

人によって持つ夢は実現しうるものであったり,途方もないものであるかもしれない.

その夢を実現するのにまず何をしたらいいのかすら分からないかもしれない.

 

そんな時は,まず過去の成功者に倣ってみるというのも一つの手である.

 

本作品は,成功のきっかけを与えてくれている...そのようにも感じた.

 

あれこれ考える前にまず動く

作中に登場する名言のなかで一番なるほど,と思った部分である.

 

自分の意識を変えてくれる本や番組,ブログは今や数多くあるだろう.

でも実際に自分が変われるのは,ガネーシャの言葉を借りれば『立って,何かをした時だけ』である.

 

何かを見て,読んで,意識が変わることはあるかもしれない.でもそれは想像だけで終わってしまって,実際に何かが変わったわけではない.

 

論語読みの論語知らず」にならないためにも,まずはこの中の一つでも実行してみることから始めてみるのがいいかもしれない.

 

終わりに

成功してる人もそうでない人も,「今の自分に満足している」人は幸せであると思う.

 

例えばこの本を読んで今までやれなかったことに挑戦してみた,周りの環境を変えてみた,など,数多くの課題のうち一つでも実行できていたとしたら,この本を読んだ効果は十分にあるかもしれない.

 

 

読んで下さってありがとうございました.

エディット・ピアフのシャンソン

こんにちは,彳亍です.

 

最近また寒いですね.風邪に気を付けたいものです.

 

 

皆さんは「シャンソン」はご存じでしょうか.

 

その分野に精通している人には怒られてしまうかもしれませんが,ジブンはあまり今までシャンソンという音楽には触れてきませんでした.

 

昨年の話になりますが,大みそかの紅白でとりわけ印象的だったのが大竹しのぶさんの「愛の賛歌」.

 

普段明るくて軽い感じの彼女があのような魂のパフォーマンスをするとは.

 

その後,彼女が舞台で演じたというエディット・ピアフという人物,また,「シャンソン」という音楽に興味が出てきました.

 

 

シャンソン」__はフランスの大衆歌謡として代表的なジャンルです.

 

そんなシャンソンの第一人者といっても過言ではないのがエディット・ピアフ

 

そして昨年2015年はピアフ生誕100周年だったとか.

 

彼女にとってもメモリアルな年でした.

ピアフの生誕100年を記念してこんなベスト盤がありました.

 

こころなしか,このイラストすら大竹さんに見えてきますねぇ~

 

この中で一番良かったと思うのはやはり「愛の賛歌」でしょうか.

 

愛の賛歌はエディット・ピアフ自身が書き上げた歌なんだとか.

 

彼女の伸びやかなアルトが心地良くて,何度もリピートしてしまいました.

 

モノラル録音によって,現代のように決してクリアな音ではないのですが,それが逆に時代を感じさせてまたいい感じを醸し出しています.

 

フランスを代表するシャンソン歌手の魂の歌声.

 

オシャレなバーで美味しい酒を味わいながら聞きたい音楽です.

 

今回はこんなところで.では(^_^)/

【書評】~小話は男の小道具~「開口一番」レビュー

こんにちは,彳亍です.

 

最近加湿器を導入しました.

 

煙の出るオシャレなものですが,気を許してつけたままで寝ると朝周りが水びだしになっていました...

 

性能のあまり高くない加湿器を使うときは飽和状態のその先まで読む必要がありそうです.

 

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開高健さんの作品を読むのはこれが初めて.

 

こちら開口さんの小話をまとめたエッセイとなっていますが,とても読みやすく,内容の面白さも手伝ってあっという間に読み終えてしまいました.

 

人柄が表れているエッセイ

 

単に今まで読んでこなかっただけかもしれませんが,「エッセイ」と聞くとジブンの中ではちょっとだけ堅苦しいイメージしか持っていませんでした.

 

でもこの作品はちょっと違います.

 

開高さんがちょっと小話を用意してきて,読み手に軽い感じで話す.

 

我々読み手はその話をふんふんと聞く.

 

時折出てくるジョークにクスッと笑う.

 

開高さんの底知れない知識に「へぇー」と関心する......

 

といったように,まるで開高さんと対談しているような,そんな気軽な感じで読みました.

 

多彩なエピソードの数々

様々な小話が詰め込まれた本作品ですが,パッと読んでも開高さんの才能が垣間見えることでしょう.

 

エピソードは本人の大好きな釣りをはじめ,料理,酒,旅など,一見ありふれたジャンルに感じます.

 

ですが,そのひとつひとつはちょっとやそっとじゃ経験できなそうなものばかり.

 

世界中を旅して,あらゆるものを見て,感じて,聞いて,食べて,得た経験がないと書けないものだと改めて考えました.

 

また全てのエピソードに開高さん渾身の「オチ」が埋め込まれていますね.

 

老若男女問わず,くすっと笑ってしまったり,腹を抱えて笑うこともあるかもしれませんね~.

 

自由奔放な文章で書かれたエッセイにも見えますが,所々に本人の謙虚さも垣間見える.

 

開高さんの人柄があふれているようです.

 

終わりに

いろんな貴重な体験をして,それを小話にして周りにアウトプットする.

 

数多くのユーモアあふれる小話は男のアクセサリーかも知れませぬ.

 

多彩で魅力的な開高さんの作品をもっと読んでみたいと思いました.

 

今回はこんなところで.ではでは(^_^)/

【書評】「コンビニ人間」を読む~「普通」とは何か~

こんにちはm(_ _)m

 

正月の贅沢により明かに太りました.

 

でも周りからは正月を通して「痩せた」との報告は聞いたことがありませんね.

 

コンビニ人間

コンビニ人間

 

 年をまたいでしまいましたが,なんとか昨年のうちに読み終えてはいました.

 

タイトルを見ただけで,コンビニでのバイト経験もあるし共感できて楽しいかな,と手に取ったのですが,なかなか考えさせられる作品でした.

 

「普通」の定義

皆さんは自分のことを「普通」と思うでしょうか.

 

そもそも何をもってその人を「普通」と決めているのでしょうか.

 

本作品に登場する主人公は30代半ばの独身で,正社員にはならず20年弱コンビニでアルバイトをして生活している女性です.

 

そして序盤にエピソードがありますが,主人公は幼いころから空気を読むのが苦手な人間でした.

 

皆さんもこれを読んで,主人公は「発達障害」だったり,所謂「アスペルガー症候群」だと感じたかもしれません.

 

ジブンもそうでした.

 

でも著者の村井さんは作中で発達障害とは直接記述していません.

 

これは著者からの「普通とは何か?」という問いかけだと感じました.

 

「普通」な人なんていない?

辞書を引いてみると,「普通」というのは「特に変わっていないこと.ごくありふれたものであること.」という意味合いがあります.

 

でも改めて考えてみると,普通でいることほど難しいことはないと思います.

 

それは人々の価値観で簡単に左右されるからです.

 

例えば作中にも出てきましたが,30代半ばになってもバイトしかしていない人を「普通じゃない」と見なす人は多いでしょう.

 

真冬に半袖短パンでいる人を「普通じゃない」と見なす人もいるでしょう.

 

スパゲッティを箸で食べていたら「普通じゃない」と見なす人もいるんじゃないでしょうか.(だいぶ飛躍しました)

 

このように,日常生活に「異端」は挙げてみればたくさん存在しますよね.

 

この「異端」を一つも持たない人はおそらくいないと思います.

 

作中の主人公だってこの「異端」を少し多く持ち合わせているだけかもしれません.

 

そう考えていくと「普通」であることは不可能に思え,誰もが誰かにとっての「異端」なんじゃないかと感じました.

 

終わりに

「異端」であることを避け,「普通」でいようとする人は多いです.

 

「普通じゃない」人は周りから村八分にされてしまうからです.

 

でも誰だって周りからすれば「普通じゃない」一面を抱えています.

 

むしろそれは短所と思わず,いっそのこと長所だと思ったほうがいいかもしれません.

 

周りの人々や自分自身に対する価値観が少なからず変わった作品でした.

 

 

今回はこんなところで.ではでは(^_^)/

【書評】「本日は,お日柄もよく」を読んで言葉のもつパワーを知る

こんにちは,彳亍です.m(_ _)m

 

今年も残り少なくなってきました.普段手にする本はなんとなくで選びますが,一年を締めくくる本となると,話は別かもしれませんね.

 

来年もどんどん本のレパートリーを増やしていきたいものです.

本日は、お日柄もよく (徳間文庫)

本日は、お日柄もよく (徳間文庫)

 

 

老若男女問わず,また多かれ少なかれ,皆さんは誰かの目の前でスピーチをするという機会は必ずあると思います.

 

ジブンにも皆の前でプレゼンをする機会が少ないわけではありません.

 

そういうスピーチの機会を持つ人,またスピーチでいつも悩んでいる人.

 

この本は必読本かもしれませんよ!

 

原田マハさんの作品の読みやすさ

実はこの「本日は,お日柄もよく」がジブンにとって初めての原田マハ作品.

 

分量は400頁弱でしたが,普段読書に不慣れなジブンにとっても非常に読みやすく,ページをめくる手がとまらないほどでした.

 

主人公はごくありふれたOLなのですが,そのOL目線でストーリーが展開するため,文体も口調も無理に正すことなくそのまま書き連ねられています.

 

読みやすくて内容がスイスイ入ってくる,というのが本作品の魅力のひとつかもしれませんね.

 

だからといって,内容が薄いなんてことは決してありません!

 

読みはじめはやはりOLの日常という感じでしたが(結婚式というイベントは”非日常”ととらえてもいいかもしれません),物語が進むに連れてガッツリ骨太な内容へと発展していきます..

 

それにも関わらず,読みやすさを維持して続きを気にさせる構成はさすがだなぁと感じました.

 

スピーチの「極意」を学ぶ

本作品にはスピーチを行う上で,守るべき極意がたくさん登場します.

 

それらの極意を知った上で,今まで「これはうまい」と感じてきたスピーチに照らし合わせると,なるほど確かに極意のいくつかをちゃんと踏まえていることがわかります.

 

もちろん,この本を読んだだけで自分のスピーチ能力が上がったとはさすがに思いません笑

 

しかし,この極意を常に意識していくことが,上達への一番の近道なのではないかと思います.

 

その際,極意のすべてを押さえる必要なんかありません.

 

数ある極意の中で,一つでも二つでも心に残っていれば,この作品を読んだ効果は十分にあると思います.

 

作中に散りばめられた胸を打つワード

言葉ってすごいな,と改めて感じます.

 

短い文章や一つの単語,時には漢字一文字であっても,人々を感動させたり,元気づけたりできるのですから.

 

スピーチがテーマに見えますが,本作品ではそれ以上に言葉のもつ美しさ,力強さが印象的でした.

 

あまり具体的に言ってしまうとネタバレになるので書きません,が,作中に点々と存在するキーワードはあまりにもイメージが強く,読み終えた後でも余韻となって残っているほどです.

 

おわりに

本作品を読んでから,いろいろなスピーチに今までと違った観点で触れるようになりました.

 

いいスピーチはたくさんあれども,本作品に登場する極意を全て押さえているとなればかなり絞られてくる気がします.

 

人生で最高のスピーチができるのは一度あるかないかのレベルだと思います.

 

「完璧」は存在しない故,私たちはスピーチに関して一生勉強かもしれません.

 

そういう意識を持つことができた意味で,本作品に触れたことは非常に幸せだと感じました.

 

 

今回はこんなところで.ではでは(^_^)/